えん下障害とは
食べ物や飲み物などを飲み込むと、口からのどを通って食道、胃へと送られます。これをえん下(嚥下=えんげ)といいます。ものを飲み込む時は、気道の入り口である喉頭蓋[こうとうがい]などが閉じて、飲食物は食道へ送られます。しかし、この動きがうまくいかないと、飲食物が誤って気道に入ってしまいます。これを誤えんといい、飲み込む過程のどこかに異常が生じてうまく飲み込めなくなった状態をえん下障害と呼びます。えん下障害があると、唾液や飲食物が肺に入ってしまうことで起こる誤えん性肺炎や、窒息を起こす原因になります。また、食事や水分をあまりとれなくなり低栄養や脱水を起こしたり、食べる楽しみを喪失してしまうといったことが起こります。
えん下障害の原因
えん下障害は、加齢に伴うえん下機能の低下に、何らかの病気が重なることで起こります。最も多いのが脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患で、ほかにパーキンソン病や認知症が原因となることもあります。また、歯が抜けていたり入れ歯が合わなかったりなど歯の問題からえん下障害が起こることもあります。
通常は気道に飲食物が入ると、それらを外に出そうとする反応が起こってむせますが、えん下障害のある人では、誤えんしていてもむせないことがまれではありません。むせない誤えんに気付くためには、「元気がない」「たんが増えてきた」「熱が出やすい」といった症状を見逃さないことが大切です。
誤えんを防ぐ食事の工夫
誤えんを防ぐためには、食事の工夫、食べるときの姿勢、口腔[こうくう]ケアが大切です。食事では飲み込みやすくすることが大切で、ポイントは「とろみ」「まとまり」「軟らかさ」です。えん下障害の重症度によって、適した食事も異なります。患者さんがどの状態なら食べやすいかで判断するほか、誤えん性肺炎を起こしたことがある場合は、えん下造影などの検査で調べましょう。
●軽いえん下障害がある場合
<通常の食事>
<軽度のえん下障害がある場合>
主食のごはんは米1に対し水5の割合でつくる全がゆにします。主菜や副菜は、飲み込みやすいように加工された市販のえん下食も取り入れるとよいでしょう。みそ汁のように、固形物と液体の混ざっているものは避け、お茶などの液体は、市販のとろみ剤で少しとろみをつけます。刻み食はかえって誤えんしやすくなるので、適していません。
●明らかなえん下障害がある場合
主食・主菜・副菜はすべてミキサーなどにかけてペースト状にし、より滑らかにします。お茶などの液体を飲む場合も、とろみの程度を強くします。